岐阜の伝統衣「たつけ」を全国へ!認定講師が60名突破、暮らしの知恵を未来へ繋ぐ
2026年8月、岐阜県郡上市石徹白地区に伝わる伝統的な作業着「たつけ」の魅力を全国に伝える認定講師が、岩手から沖縄まで計62名に達しました。石徹白洋品店が2023年に開始したこの制度は、布を無駄にしない直線裁断の知恵と、その背景にある豊かな暮らしの価値観を現代に伝え、地域を超えた共感の輪を広げています。
岐阜の山里から全国へ広がる「たつけ」の知恵
岐阜県郡上市の山里、石徹白(いとしろ)地区を拠点とする石徹白洋品店は、この地に古くから伝わる作業着「たつけ」の普及活動を進めています。2026年8月には、この「たつけ」の作り方や背景にある暮らしの知恵を伝える認定講師が、全国で62名に達しました。
「たつけ」とは?布を大切にする暮らしの知恵
石徹白地区は、かつて麻の栽培から糸づくり、機織り、藍染め、そして服の仕立てまで、衣服を自給自足していた地域です。布が非常に貴重だったため、布を無駄にしない「直線裁断」という独特の知恵が受け継がれてきました。「たつけ」は、この直線裁断を代表する衣服です。田畑や山仕事に適した動きやすさと丈夫さ、そして傷んだら繕いながら長く着続けられるという特長があります。
石徹白洋品店は、この「たつけ」を単なる過去の衣服としてではなく、現代の暮らしに再び息づく文化として伝えるため、製品の製造・販売だけでなく、その作り方を教えるワークショップや講座を積極的に開催してきました。
全国に広がる認定講師の輪
ワークショップの参加者からは、「日本にこんな作りの服があったとは驚き」「動きやすくてたつけしか穿けなくなりました」「布を無駄にしない素晴らしい服ですね」といった声が寄せられ、「たつけ」の魅力をより広く伝えたいという思いが強まりました。
この思いを実現するため、2023年より「認定講師」制度が始まりました。これは「たつけ」をはじめとする石徹白に伝わる服づくりを教える講師を育成し、全国に広めていくための仕組みです。2泊3日で石徹白に滞在しながらワークショップの開催方法を学ぶ講座を受講し、課題を提出することで講師として認定されます。現在までに第16期まで修了し、全国に62名の認定講師が誕生しています。


多様な背景を持つ認定講師たち
認定講師には、洋裁講師、会社員、裁断職人、農ある暮らしの実践者など、多様な人々がいます。彼らに共通しているのは、「昔の服だから残したい」のではなく、「今の暮らしに必要だから伝えたい」という強い思いです。
例えば、東京都の松本博美さんは、服づくりの過程で出る大量の端切れに違和感を抱いていましたが、「たつけ」の「布を無駄にしない」考え方に深く共感し、現在はたつけや服のリメイク教室を開催しています。
奈良県の西村多代さんは、裁断の仕事に携わる中で「四角と三角だけで自分サイズのズボンができたことに感動した」と語り、純粋な「たつけ」への愛から認定講師になりました。
佐賀県の北崎まなみさんは、地方での自給的な暮らしを営む中で「反物を無駄にしない」という考え方に魅力を感じ、福岡、佐賀、愛知を中心に活動しています。
東京都と宮城県(仙台)で活動する秋野貴子さんは、手仕事を通じた人とのつながりを大切にし、「石徹白民衣の輪を広げていきましょう」と定期的に「たつけ」作りの場を設けています。

「たつけ」が伝える石徹白の暮らしの記憶
石徹白洋品店の代表である平野馨生里氏は、初めて石徹白を訪れた頃を振り返り、地元の人々が食べるものを作り、家を直し、服を縫い、娯楽まで自分たちで生み出す、楽しそうな日常に惹かれたと語ります。
「たつけ」は単なるズボンではなく、限られた布を大切に使うこと、自分たちの暮らしに必要なものを自分たちの手で作ること、家族や地域の人々が集まり手を動かしながら語り合うことといった、この土地に息づく知恵と心そのものを象徴しています。これらの価値観は、現代の暮らしにも受け継ぎたいものです。
「好き」という気持ちでつながる未来へ
認定講師が60名を超えたことは、「たつけ」の技術を教える人が増えただけでなく、石徹白の暮らしの中で育まれてきた知恵や価値観に共感する人々が、全国に60名以上いることを示しています。
石徹白洋品店では、本店でのワークショップに加え、全国各地の認定講師による講座やオンライン講座を通じて、「たつけ」の輪を広げています。石徹白を訪れて学ぶ人、地域で学びを深める人、自宅で手を動かしながら学ぶ人、それぞれの暮らしの中で、「たつけ」の知恵は少しずつ浸透しています。
石徹白洋品店は、「たつけ」の形だけでなく、布を大切にすること、手を動かすこと、土地の記憶を受け継ぐこと、そして「好き」という気持ちで人と人がつながることといった豊かさを、次の世代へ手渡していくことを目指しています。


